『メッセージ』レビュー|言葉は「未来」を変える鍵になるのか?

洋画

言語、記憶、そして時間——

「あなたなら、未来の悲しみが分かっていても、その人生を選びますか?」

静かに心を揺さぶるSF映画『メッセージ』は、宇宙人との接触という題材を通して、人間の本質的な問いを私たちに突きつけてきます。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるこの作品は、ただのファーストコンタクトものではありません。言語の力、母と子の愛、そして“記憶”と“時間”の概念が、繊細に、そして壮大に描かれています。

一見難解にも思えるストーリーの奥には、人生をどう選び、どう生きるかという普遍的なメッセージが込められていました。


作品情報

  • 原題:Arrival
  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 脚本:エリック・ハイセラー
  • 原作:テッド・チャン『あなたの人生の物語』
  • 主演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー
  • 公開年:2016年
  • ジャンル:SF/ドラマ/ヒューマン

あらすじ

突如として世界各地に出現した、12機の謎の飛行体。
それぞれの国が対応に追われる中、アメリカ政府は言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)を招集し、宇宙人“ヘプタポッド”との意思疎通を試みます。

彼らが何を語っているのか?なぜ地球に来たのか?
軍と科学者の間に緊張が走るなか、ルイーズは彼らの言語の鍵を掴み始めます。
しかしその過程で、彼女は“ある記憶”と“時間”に関する認識の変化に直面するのです。


人生観が変わるポイント

「言語が認識を変える」という思想に衝撃を受ける

『メッセージ』の根底には、「言語は思考を変える」というサピア=ウォーフの仮説があります。
ルイーズが“ヘプタポッド語”を学び始めることで、彼女の“時間の捉え方”そのものが変化していく様子は驚異的です。

私たちが話す言葉は、単なるコミュニケーションの道具ではなく、物の見方や考え方を形作るフレームそのもの。この発想は、観る者に深い問いを投げかけます。

「あなたが新しい言語を学んだとき、その言語があなたの“世界の見え方”を変えてしまったとしたら?」

この問いに直面したとき、自分自身が使う“言葉”の重みや可能性に気づかされます。


「非直線的な時間」という発想が、未来への向き合い方を変える

本作で描かれる時間は、“過去→現在→未来”という直線的なものではありません。
むしろ、“未来の出来事を先に知っている状態”で現在を生きていくという不思議な感覚が広がります。

ルイーズが見ていた「記憶」は、過去ではなく“これから訪れる未来”。
それを知った上で、彼女がある重大な選択をする場面は、まさに人間の意志と愛の強さを感じる瞬間です。

「悲しみが約束されていたとしても、私はこの人生を選ぶ」

その決断に、私は言葉を失いました。


“接触”ではなく“理解”を描くSF作品という新しさ

多くのSF映画では、“異星人との接触=戦い”という構図が一般的です。
しかし『メッセージ』は違います。重要なのは、彼らを「理解しようとする」こと

ルイーズの姿勢は、まさに現代社会にも通じます。
未知や他者に対して“恐れ”ではなく“理解”を選ぶこと。
この映画が発信しているのは、平和や対話の大切さに対する明確なメッセージです。


印象に残るセリフとその意味

「If you could see your whole life from start to finish, would you change things?」
(もし人生の始まりから終わりまでを知っていたとしても、あなたは何かを変えますか?)

この問いこそが『メッセージ』の核心です。
ルイーズは、未来の出来事がどれほど痛ましいものであっても、その過程にある“愛とつながり”の意味を深く理解しています。

人は痛みを避けたくなるものですが、それでもなお、“その瞬間を生きたい”と思えるかどうか。
このセリフには、人生における選択の尊さと覚悟が詰まっていました。


まとめ

映画『メッセージ』は、SFでありながら、哲学的で詩的なヒューマンドラマです。
「言葉とは何か」「時間とは何か」「人生とは何か」という根源的な問いを、壮大なスケールと繊細な感情で描いています。

派手なアクションはありません。それでも、観終えたあとには静かに心を揺さぶられる感覚が残るはずです。

言葉の力、記憶の意味、そして人生の選択。
この作品は、あなたに“自分の生き方”を見つめ直す時間を与えてくれるでしょう。

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