音が消えた世界で、あなたは何を聴き、何を感じますか?
突如として音を失ったドラマー。彼の混乱と葛藤、そして静寂の中で見出していく再生の過程は、観る者の心を深く揺さぶります。
映画『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』は、聴覚を失うという現実と向き合いながら、「本当に聴くこと」とは何かを観客に問いかける力強いヒューマンドラマです。
静寂のなかに広がる豊かな世界。
音の喪失を通じて、逆に見えてくる人生の本質とは?
13年映画と向き合い続けた視点で、その魅力を徹底解説します!
作品情報
- 原題:Sound of Metal
- 監督:ダリウス・マーダー
- 脚本:ダリウス・マーダー、アブラハム・マーダー
- 主演:リズ・アーメッド、ポール・レイシー、オリヴィア・クック
- 公開年:2020年
- ジャンル:ヒューマンドラマ、音楽、社会派
あらすじ
メタルバンドでドラムを叩くルーベンは、恋人のルーと共にバンで旅をしながらライブを続ける日々を送っていました。
しかし、ある日突然、彼の聴覚は崩れるように失われていきます。
医師の診断は「不可逆的な聴覚障害」。
混乱と恐怖に苛まれたルーベンは、補聴器の手術費用を稼ごうとしますが、依存症からの回復途上にある彼は、その不安定な精神状態と向き合わねばなりません。
ルーのすすめで、聴覚障害者コミュニティの支援施設に入所したルーベンは、そこで手話を学び、新たな価値観と出会っていきます。
耳の聞こえない世界のなかで、自分のアイデンティティとは何かを問い直すルーベンの旅が、静かに始まります。
人生観が変わるポイント
「聴こえること」と「聞くこと」は違うという気づき
ルーベンが聴覚を失った直後、彼は「元に戻ること」に固執します。しかし物語が進むにつれ、”聞こえない”状態での暮らしの中にある「静寂」の豊かさに気づいていきます。
それは単に音を失った代償ではなく、むしろ“心の耳”を研ぎ澄ませるきっかけだったのです。
この作品は、耳から入る音以上に「世界を感じ取る」手段があることを、丁寧に伝えてくれます。
静寂のなかに宿る「平穏」と「自由」
聴覚障害者のコミュニティで暮らすうちに、ルーベンはそこにある秩序や哲学に出会います。
特に施設の指導者ジョーが語る「静寂のなかにある平穏」という言葉は、ルーベンにとって最初は理解不能でしかありませんでした。
しかし次第に、自分を責めず、他人を責めず、今の自分を受け入れることで、初めて本当の自由に近づいていく様子は、視聴者に深い学びを与えてくれます。
「何かを失うこと」は終わりではなく、新たな始まり
この映画の根底にあるのは、喪失=不幸という単純な構図を超えた視点です。
ルーベンが音楽を失っても、音楽を「体で感じる」方法を知り、言葉を「手話で交わす」喜びを見出し、世界を再び感じていく姿は、失うことの先に広がる新しい可能性を力強く描いています。
印象に残るセリフとその意味
「静寂の中に身を置いたとき、平穏を見つけることができるんだ。それが“stillness(静けさ)”だよ」
この言葉を投げかけたのは、施設の指導者ジョー。
騒がしく不安定な心で「戻ること」だけを求め続けるルーベンにとって、まさに人生の転換点となる一言でした。
“stillness”という言葉が持つのは、単なる音のない状態ではなく、心のざわめきを超えた「内なる静けさ」。
現代社会の喧騒に生きる私たちにとっても、この言葉は深く突き刺さります。
まとめ
『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』は、ただ聴覚を失った男の物語ではありません。
それは、「自分とは何か」「音とは何か」「世界とどうつながるか」を問い直す、静かで力強い魂の再生の物語です。
音のない世界に飛び込み、そして静けさの中で見つけた光。
この映画を観終わったとき、あなたの中の「聴くこと」の意味が変わっているかもしれません。
人生の本質に触れたいすべての人に、心からおすすめしたい一作です。
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